2009年4月15日水曜日
仕事師ゴールドマンはファッキン・ビューティフル!
(出典:ビスポーク)
他証券を出しぬき、投資家を煙に巻き、政府をも恐れない、、、
やっぱりゴールドマンというカイシャは凄いぞ!
僕は昔、スポット・セカンダリーの仕事をしていたのでこの手のディールを実行する際の「呼吸」とか「下準備」などは心得ているつもりですが、今回のゴールドマンの公募の手際良さは、やっぱりズバ抜けていた。余りの完璧さに思わず「ファッキン・ビューティフル!」と叫んでしまいました。
それじゃどこが美技か?
まず今回のように誰からも「ゴールドマンは公募をやるに違いない、、、いや、やらないわけにはゆかない」と自分の手の内がバレている場合、ディールというのはとてもやりにくいものなのです。
それは例えて言えば上陸作戦(amphibious attack)と同じ「絶望的」条件だということです。つまりセカンダリーである以上、有利に資金を調達するためには株価を事前に吊り上げておく必要があります。(希釈化を最低限に抑えるため。)
これは自分から「上陸作戦を計画しているぞ」ということを敵に知らせてしまうような行為です。つまりサプライズの要素が欠けているわけです。
だから敵は上陸作戦が行われるだろうと思われる砂浜には地雷を埋めたりトーチカを建設したり、鉄条網を張り巡らせたりして用意万端、待ち構えているわけです。
こういう場合、投資家が予期したのと同じ好決算を発表しても、それは織り込み済みで株価が急落したり、ハメコミにてこずったりするリスクがあります。
このため、最初にやる仕事として決算を市場予想以上に「ぶっちぎり」に良い数字を「ねつ造」する必要があるわけです。(これについては後で解説します。)
次にディールのタイミングです。
もともとゴールドマンは現地14日の朝に決算発表ならびにカンファレンス・コールを予定していました。
でもこのスケジュールじゃダメなんです。
なぜならスポット・セカンダリーをはめこみするには海外市場でも新株をオファーするためにオーバーナイトの時間が必要だからです。
そこでゴールドマンは昨日、決算発表のタイミングを繰り上げ、13日の引け後に売上高やEPSを発表しました。数字はもちろん、「ぶっちぎり」です。
ここで大事な小細工として、カンファレンス・コールは繰り上げしなかったのです。これは偶然のomissionではありません。ちゃんとchoreograph(=舞踊の振り付け)された戦術です。
さらに決算のリリースは当然、銀行持ち株会社移行による2008年12月分の「捨て子(orphan)」月に関するreconciliation(数字の突き合わせ)があるのか?と思いきや、探しても探してもその部分というのは昨日の時点ではわかりませんでした。(僕だけがわからなかったのかも知れないけど、、、)
つまり「ぶっちぎりの決算だぞッ!」というheadline numberだけを頼りにハメコミをkick-offし、機関投資家は昨夜のうちにディールに参加するのか、しないのか?の決断を詳細な数字を知らされる前に迫られたのです。
当然、機関投資家はしぶしぶディールに参加します。
その後で値決め直前のけさ、カンファレンス・コールを開催して、アナリストからの質問に答えます。すると自ずとトレーディング損などの項目は「捨て子」月である12月に全部ぶち込んであることが判明するわけです。
しかもAIGからのデフォルト保険の保険金支払いは殆ど12月に集中しているので均してみたAIG絡みの利益はドカンと出ないように相殺してあります。(AIGの保険金支払いは元はと言えば国民の血税であり、それをダイレクトに利益→ボーナスへとつなげてしまうと国民からの非難が出ます。それを回避したわけ。)
もちろん今回の決算にはそういう小手先だけのトリックじゃなくて、本当に実のある内容というのも含まれています。たとえばCMBSのマーキングですけど、評価は「50%台の上半分あたり」というコンサーバティブな数字を使ってあります。
これは以前に言われていた90%台という数字よりずいぶん厳しい自己査定になっています。それはもちろん、会計的には良いことですが、同時に他証券との絡みで言えば「いやがらせ」という風に取れなくもありません。(なぜなら他証券はそれだけコンサーバティブな水準までマークを下げてくることは出来ないから。)
また、ガイトナー財務長官のPPIPもゴールドマンの50%台のマーキングを前に見栄えが悪くなります。(ガイトナー財務長官が例示したマーキングは84%。)
つまりこのマーキングは他社がスポット・セカンダリーでゴールドマンに追随するのを払い落そうとする意図があるのです。
たぶん財務省や連邦準備制度は今回のゴールドマンのディールには少なからず腹を立てていると思います。
PS:
なお、値決め後ゴールドマンは「TARP」の金を返すのは「わが社の責務(duty)だ」とコメントしています。(なんだかもったいつけた言い方ですね。)
でも政府はかならずしもそう考えていない可能性もあります。なぜならGSがTARPの資金を返済する本当の理由はボーナスの支払などで箸の上げ下ろしまで政府に文句を言われるのがイヤだからであり、資本市場が平静になったから、もうこのクッションは必要無いかと言えば、それは必ずしもそうとは言い切れないからです。
むしろGSがTARP資金を返してしまうことで他行にも歪んだ競争原理が働いてしまい、体力が無いくせに資金を返そうとするムリな資本戦略が横行しかねません。
それらの事から考えて、政府がGSのTARP返済に「NO」と言う可能性は未だ残っているのではないでしょうか?
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3 件のコメント:
そうですよね。
でも、冷徹に儲け続けるためには、こうするしかないと思いました。
春山さま
コメントありがとうございます。
ブラックロックのピーター・フィッシャーはゴールドマンが1~3月の期間中にAIGから投げ出される玉で荒稼ぎしたことについてチョッと非難するような口ぶりでインタビューに答えていました。また今回のGSの利益はAIGという特殊要因があったので、来期以降は再現できないかもしれないと指摘していました。
ブラックロックという会社の立場上、テレビなどであからさまにGSを批判するというのは、やっぱり相当な事ではないでしょうか?
今回のGSの増資はディール・メーカーとしてはThey left nothing on the tableというわけで見事にスッ高値で売り抜けました。その手腕は僕も素晴らしいと改めて感心しました。
ただ一歩さがってインベストメント・コミュニティー全体という視点から全体的に物事を考えた場合、やっぱりGSは誰にも手心をくわえず、容赦なくむしることで友人をどんどん無くしているきがしてなりません。
ゴールドマンの公募が絶妙だったというのは理解できたのですが、公募価格の123ドルという水準が適正だったのかはイマイチ納得できません。
実際、14日の引値は公募価格を下回ってますし。
また、公募の需要が強かったのなら当初の50億ドルから拡大しても良かったような気もするのですが、拡大しなかったのは公募価格の水準が関係しているのでしょうか。。。
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