☆ ☆ ☆

2008年9月22日月曜日

首をかしげたくなる野村のリーマン・アジア買収

野村證券がリーマン・ブラザーズのアジアの事業を継承するようですね。

僕はわりと冷めた目で今回の決定を見ています。

その理由は先ず日本の証券会社とアメリカの証券会社は報酬システムが根本的に異なるので、それを統合するのはとても難しいと思う点です。

場合によっては野村の社員よりリーマンの社員の方に沢山報酬を出さないと折角取り込んだリーマンの社員をつなぎとめるのは難しいでしょう。

その場合、今度は昔から野村でがんばってきた社員の方から不満が出ることが考えられます。
「なんで倒産して、救済してやった会社の社員の方を優遇するんだっ?」てね。

とりわけリーマンという会社はウォール街の数多くの証券の中でも独立心の強い(=わがままな)社員の集まっている会社です。これを御してゆくのは容易ではありません。場合によっては野村のカルチャーそのものが変わってしまう可能性もあります。

さて、リーマンは確かにM&Aや株式の調査などでも一定の評価を得ていましたが、やはり最も魅力的なビジネスは債券部、ないしは住宅抵当証券絡みの事業だったと思います。今回のサブプライムの事件でウォール街の債券のビジネスは永遠に、かつ根本的に様子が一変してしまいました。

加えてリーマンはすでにバラバラですから、アジアの事業部だけを残骸から拾い集めても、いままでリーマンがひとつの会社として一体感があったときに、そのアジア事業部から稼ぎ出されてきた収益と同じ水揚げを、稼ぎ出せると考えるのは楽観的なように思います。つまり投資銀行というのはグローバルに展開しているからこそ競争力があり、ビジネス・シナジーがあるわけで、それがリージョナル(地域密着型)な存在になってもいままで通りの高収益は上げられない気がするのです。

いずれにせよ、一度壊れてしまった投資銀行を再興するのは、容易ではないのです。

若し、今後、世界の資本市場の状態が改善して、ビジネスが上向いてくれば、野村が取り込んだ元リーマンの社員はどんどんもっと報酬の良い会社に移籍すると思います。

若し証券不況が長く続けばそれらの社員は金食い虫になって野村を苦しめ続けると思います。


一方、三菱UFJがモルガン・スタンレーの株式を取得すると発表していますが、こちらは良いディールだと思います。なぜなら:

1.大手術の必要も無く、ただパッシブな株主としてモルスタが立ち直るのを見守るだけでよい
2.そもそもモルスタのビジネスは壊れているわけではないし、別に債券部が今後長期低迷してもM&Aや株式引き受けでモルスタは圧倒的な強みを維持している

からです。

8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

知り合いが野村にいますけど、既に、外人は、完全に成果主義の給与体系で雇っているそうですよ。海外においては特にそうでしょう。
そうでなければ、投資銀行業界で人材を雇い続けられないでしょう。
インスティネットもうまくマネージしているようですし、海外において、コンペンセーションをどう設計するか?ということは、野村も十分経験がありますし、リーマンの部隊をどう扱うかについても色々と考えているのではないかと思います。
野村が欲しかったのは、リーマンの日本法人ではなく、香港やシンガポールを中心とするアジアの方で、東京ではないと思います。リーマンの東京拠点にいた日本人の給与体系については、確かに野村の日本人社員との整合性の問題も出てくる可能性がありますが、彼らに関しては、極論すればいなくなってもらって構わないと踏んでいるのではないでしょうか。野村は、東京では既に確固たるポジションがあるのですから。

広瀬隆雄 さんのコメント...

wbjさん

コメントありがとうございます。

野村が欲しかったのはリーマンの日本法人ではなく、香港やシンガポールの方だというwbjさんの意見に同感です。

あと、インスティネットはテクノロジー・プラットフォーム(=執行システム)の会社であり、投資銀行ではありません。なのでインスティネットが上手く御せても、だから投資銀行が上手に経営できるとは言えません。

別に野村に出来る、出来ないというのを問題にしているのではなくて、投資銀行の経営というのは誰がやっても難しいのです。

リーマンのアジアの拠点の文化はまたチョッと違うかも知れませんけど、僕がNYに居た頃はリーマンの社風は「Snake pit」だと言われてきました。そのくらい競争や足の引っ張り合いは激しかったわけです。

さて、リーマンのアジアの拠点ですけど、僕は正直言って余り魅力を感じません。

例えばメリルやモルスタならインドの株式業務に強いです。クレディスイスは中国の優良企業の引き受けを総ナメにしました。ゴールドマンやモルスタ、シティも中国政府と太いパイプを持っています。UBSは株式の調査では定評があります。JPモルガンはフレミングのアジアのフランチャイズを継承していますから、それなりの地位があります。

そういう他社と比べたとき、果たして野村ほどの会社がリーマンのアジア部門を必要とするのか?ということが僕にはどうしても呑み込めないのです。

匿名 さんのコメント...

投資銀行のビジネスモデルが破綻してますから、アジア地域の元リーマン従業員も贅沢もいってられないでしょう。

東京三菱UFJのモルスタ出資は、GSモルスタ銀行への米国政府の公的資金投入の確信がある話なら、よいディールなのではないでしょうか。政府保証がなければ紙屑同然ですから・・・

匿名 さんのコメント...

モルスタにWBの救済をさせる為の銀行持株会社化という事はないのかな?
モルスタ単独でのWBへの資本充当が無理だったので、先日の2社の交渉が流れたのでは?
そこにUFJが出資となれば、その金で
今回の救済スキームの先鞭をつける意味で損失を出させると。
だとすれば、おいしい話かどうか、、。

危ない銀行は破綻処理して公的資金注入といっても、FDICに金が残り僅かの現状。とても全ての銀行破綻に対応できない様子。

この辺りにどなたかお考えはありませんか?

匿名 さんのコメント...

>モルスタにWBの救済をさせる為の銀行持株会社化という事はないのかな?

それはイヤな話ですねぇ
三菱のADRは下がってるというし、ココはチャンスだ!と、単純にはしゃぐのは総計でした。

実弾投入は、もう少し経緯を見守ってからにします

匿名 さんのコメント...

広瀬様

早速にお返事ありがとうございます。
リーマンのアジア部門の実力については、僕などよりも広瀬様の方が、よくご存知だと思うので、仰る通りなのだと思います。
インスティネットと投資銀行の違いも、仰るとおりですね。
とは言え、野村が払うのは所詮200億強であり、かつ、ブックの資産は引き継がないそうですから、リスクも大きくないと思います。そういう意味で、駄目元でいい訳ですから、日本人としては、上手くやってほしいものだと思います。
MS-UFJのディールの方は、MSだけならともかく、他の方が書かれているように、僕も、WBがくっついてくるとすると厄介な感じがします。WBとくっついた時には、20%の出資比率も下がってしまう訳ですし、何より、WBの不良債権が心配です。
GSとMSの銀行持株会社化は、MSとGSが銀行を傘下に入れることを想定しているのではないかと個人的には思っています。何故なら、MERのように、自らが銀行の傘下に入る場合にはそのような事をする必要は無いですし、MSやGSが自ら預金取扱業務を始めるというのも考え難いからです。考えられる目的は、銀行を傘下に入れることくらいではないでしょうか。でも、大きな銀行で良い所はもう残っていないような・・・WFCとかはGSやMSの傘下に入る気が無いでしょうし、WFCの方が遙かに時価総額が大きいですし。

呉服橋太郎 さんのコメント...

はじめまして。
というか私が10数年前に外国株を始めた頃に踏み上げさんにはお仕事上ですが何度かお会いして色々教えて頂きました。
それ以来ずっと主に米国株一辺倒ですが、今回の相場のVolatilityの高さには驚かされるばかりです。
とはいえ仕事なので驚いてばかりもいられないのですが、これからアクティブリスクを取りに行くとすれば、何となくディフェンシブから一部金融株も含む叩き売られたシクリカルなのかな、と感じています。
特に足元や次の第4四半期あたりでマイナス成長が実現すれば、市場はその次の景気回復を見に行くのではないかと思うのですが。。。

匿名 さんのコメント...

アジアのみならず、ヨーロッパ事業も買収したようですね。
これはどう評価されるのでしょうか?
野村は最近ではインサイダーのイメージしかなかったですが・・・