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2008年12月10日水曜日

メディアの場外乱闘



「墓場のダンサー」ことサム・ゼルが買収したトリビューンが倒産しました。 言うまでもなくトリビューンは「シカゴ・トリビューン」や「LAタイムズ」の親会社です。

彼くらいソロバンがたつ男でも従来の特権的メディアの凋落のスピードの速さは予見できなかったわけです。このようにネットの登場で従来のメディアの地位が脅かされていること自体は別にニュースでもなんでもありませんけど、最近、「守り」の側に立たされた新聞社なども新しい試みで反撃に出ています。

その中でも『フィナンシャル・タイムズ』のブログ、「FTアルファヴィル」はかなりいい線行っている試みです。友人のヘッジファンドのマネージャー達も:

「最近、アルファヴィルばっかり読んでるよ。もうLexの時代じゃないね。」

と言っています。この意見には僕も激しく同意しました(笑)。

「レックス・コラム」というのはフィナンシャル・タイムズの中でもとりわけ注目度の高い、市況解説と社説が合体したようなコラムであり、辛口の意見の鋭さで知られています。

でも最近は「レックス」の筆は鈍りがち。むしろチョンチョンに尖がったコメントはブログ、「FTアルファヴィル」の方に圧倒的に多くぶち込まれています。それがリアルタイムでガンガン出てくるわけだから、こりゃ読む方にしてみれば目が離せないわけです。(笑)

それもそのはず、フィナンシャル・タイムズはこのアルファヴィルにとりわけ選りすぐりの敏腕記者チームを投入しているからです。(上の写真はFTアルファヴィル・チームのサム・ジョーンズとトレーシー・アロウェイ → この他にも素晴らしい記者が何人も居ます)

彼らは証券会社が面白いレポートを出したら、すぐコピペしてそれに反論したり、加筆したり、或いは他の同様の意見をアグリゲート(寄せ集め)してひとつの相場観として読者に呈示したりするわけです。

同様に市井のブロガーの記事でも鋭い洞察をしているものはガンガン引用、リンクします

ところで例の買春行為でニューヨーク州知事を辞めたエリオット・スピッアーは最近、オンライン・ジャーナル「スレート」に寄稿しはじめています。その「スレート」でドットコム・バブル時代にスピッアーに糾弾されたヘンリー・ブロジットが「先輩」として記事を書いているのは奇遇というか運命のいたずらですね。 この例からもわかるように既存のエスタブリッシュメントの外にでも内部事情に通じたエキスパートは幾らでも居るんだし、彼らはもはや自分の声を聞いてもらうために大メディアを必要としていないのです。

実際、「リアルクリアマーケッツ・ドットコム」のように金融市場に関するニュースを全て網羅してしまうサイトが登場しているので、優れた意見を書けばほぼ間違いなく注目される時代になっているのです。

「独占」できないなら「共棲」しよう!

「FTアルファヴィル」はこの単純な事実に最初に気付いた経済紙なのです。

この結果、「FTアルファヴィル」はマーケットに関する様々なものの見方、考え方のある種のクリアリングハウス的な役目になりつつあるのです。つまり従来のFTの編集基準、品質管理の埒外で記者達に「場外乱闘」を許している点がアルファヴィル・チームを獰猛にしているのだと思うのです。

フィナンシャル・タイムズはエディトリアル・バジェットの関係かどうか知りませんがホンチャンのFTそのものの記事は深く掘り下げた、読むに足る記事は近年どんどん少なくなっています。

その点、ウォール・ストルート・ジャーナルは、「あとから事実を振り返る」風のインベスティゲーティブ・ライティングでは記者たちに「足で稼いだ」徹底的な取材をさせ、深みのある記事を書きます。

しかしことブログに関する限り、FTはウォール・ストリート・ジャーナルを完全に引き離したと思いました。

そのウォール・ストリート・ジャーナルも28個もブログを掲げて頑張っています。でもコピペとリンクが無い分、ネタに苦しんでいる観は否めません。

もちろん、WSJのブログの中にも良いものはあります。例えば「ディール・ジャーナル」の中で「非常勤」的に書いているエヴァン・ニューマークなどは鋭い記事を書きます。

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