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2008年12月31日水曜日

変貌する金融サービス業

一年の終わりなので来年に向けての展望みたいなことを書きたいと思います。でもありふれた「マーケットの見通し」のような文章ではつまらないので、特定の業種、具体的には金融サービス業に限定して来年起こること、そこで働く人が予期しないといけない変化、リスクといったことについて書きます。

2008年は証券業にとってどんな年だったか?
先ず債券、株式、M&Aなどのフィーは軒並み前年比4割近く落ち込みました。とりわけ債券引受けフィーの落ち込みが激しかったです。債券引受けフィーの激減の主因はストラクチャード・プロダクツ(=住宅ローン証券化商品など)がそもそもカテゴリーとして消滅同然になってしまったことによります。この商品に関しては投資家間で「不良在庫」が山積みになったままなので09年も復活は望めません。さらに09年は証券化商品の組成や原資産をめぐるリーガル・フレームワーク(法律の枠組み)が大幅に変わる可能性があります。そのリスクを考えると投資家が引き続きそれらの商品を購入するインセンティブはゼロだと思います。

変わるバイサイド
一方、機関投資家の側の経営環境も激変しています。中でもヘッジファンド業界では大きな変化が出ています。具体的にはブヨブヨに肥大化した「巨大ヘッジファンド」がコストと運用フィーのミスマッチを是正する必要に駆られているという点です。巨大ヘッジファンドの多くはマルチストラテジーと呼ばれる複数の投資戦略を用いていますが、その多くは収益の源泉をレバレッジに依存しています。市場の流動性の枯渇はそうしたレバレッジに依存する投資ストラテジーを不利な立場に追い込みます。つまり巨大ヘッジファンドが生き残るための手段として、「さらに大きな運用資産を獲得することにより活路を見出す」という選択肢はもはや通用しないということです。

こうした運用面でのプレッシャーに加えてハイ・ウォーターマークの問題もあります。ハイ・ウォーターマークとは「投資家が損を取り返すまではヘッジファンドはパフォーマンス・フィーを徴収できない」という規定です。余りに損が大きいファンドの場合、このハイ・ウォーターマークの水準まで基準価格を戻せないなら、いっそ廃業した方が良いと考えるマネージャーも続出すると思います。つまりヘッジファンドは大部分のケースでは「破綻するのではなく、自主廃業するもの」なのです。

ヘッジファンドの自主廃業が続出するとヘッジファンドとその顧客との間での成功報酬制度の非対称性の問題が顕在化します。つまりファンドが勝っているときはヘッジファンド・マネージャーはキャピタルゲインの20%を成功報酬としてすぐピン撥ねるにもかかわらず、ファンドがマイナスになるとすぐに自主廃業してハイ・ウォーターマークをリセットする事例が出ると思うからです。

また投資ストラテジーの面から考えても一度ファンドの規模を小さくして、成功報酬にありつける見込みの無い顧客を切り捨てることでファンド・マネージャーは自分のリターンの見込みを改善することが出来るのです。

メードフ事件の意味すること
さて、最近発覚したバーニー・メードフの「ねずみ講」事件はヘッジファンド業界にとって大変重要な意味を持ちます。なぜならフィーダーという構造に対する一般投資家の猜疑心がとても増したからです。またファンズ・オブ・ファンズという存在が実は全く付加価値の無い「寄生虫」のような存在であることに対する投資家の理解もようやく深まりつつあります。今回の事件ではSECとメードフのファンドの「ねんごろな関係」が明らかとなり、SECは面目丸つぶれになりました。新しいSECのヘッド、メアリー・シャピロはSECの威信を取り返すためにギュウギュウ締め付けてくると思います。それはコンプライアンス・コスト面でも、マーケティングのしやすさという面でもこれらの「仲立ち」の仕事が四面楚歌になることを意味します。

ヘッジファンドは必要か?
さて、年金などの場合、一定の資金を「オルタナティブ資産」に割り当てるのが賢明なやり方だという常識が出来上がっていました。その根拠のひとつは「マーケットの動きとは連動しない資産を組み入れる必要性がある」ためです。しかしこの考え方は2つの面で挑戦を受けています。一つ目は度重なるヘッジファンドの機能不全やスキャンダルで、「マーケットとは連動しない資産を組み入れる際のコストとして、どれだけの犠牲を容認できるのか?」という問題意識が最終受益者の間で芽生えている点です。もうひとつは法律改正でミューチャル・ファンドなどがウルトラ・ショートETFなどを組み込んで良くなったために「マーケットの動きとは連動しない資産」としてのヘッジファンドの専売特許が喪失してしまったわけです。これらのことを考えればヘッジファンドの未来は暗いと言わざるを得ません。

ミューチャル・ファンドの未来は暗い
さて、アメリカのミューチャル・ファンドの未来も極めて暗いと思われます。その理由はベビーブーマーが今後リタイアメントの年齢に達するに従い、①リスクの低い投資対象にアロケーションをシフトする、さらに長期的には②401(k)の取り崩しが始まるという2つの大きな潮流が予想されるからです。アメリカのベビーブームは1946年から1964年まで続きました(=他の国より期間が2倍くらい長いです)。するとベビーブームの先頭の世代は63歳を迎えるわけです。アメリカのソーシャル・セキュリティー制度における正式なリタイアメント年齢は65歳ですが、実際には63歳頃までには働き口が無くなって「実質リタイア」状態になると言われています。ですから今後は年々、「401(k)取り崩し組」が増えるわけです。アメリカの株式市場参加者にとって積み立て式投信の存在はずっと強気要因を構成してきました。しかしこれからはその存在が徐々に相場の頭を押さえる、需給圧迫要因になるのです。さらに401(k)の取り崩しが盛んになると12b-1フィーの存在がだんだん社会問題化する危険性もあります。アメリカの投信販売のフィー・ストラクチャーは極めてバックエンド・ローデッド(出口でのフィー徴収の比率が大きいこと)になっており、これは投資家を大いに幻滅させるでしょう。

それは若い人がミューチャル・ファンドを利用して積み立てを行わないという新しい消費態度を植え付ける可能性があります。実際、ミューチャル・ファンド販売は既に極めて低調になっています。

それではアメリカの若い人たちはどうやって投資しているか?と言えば、それはETFです。これは単にファッションでそうなっているのではなくて、そもそも商品の設計面でミューチャル・ファンドよりETFの方がエレガントだし、「燃費が良い」からです。この商品性の違いが理解されるに従って、アメリカではどんどん株式型ミューチャル・ファンドが売れなくなり、その一方でETFの人気は加速度的に増しています。この変化は運用会社の資産ランキングにも既に甚大な影響を与え始めています。

FX(為替証拠金取引)などのウエブ・ベースの金融サービスの隆盛の意味すること
さて、機関投資家の世界ではヘッジファンドや投資銀行を中心にレバレッジの使用がどんどん廃れています。これとは対照的に個人投資家の世界では①レバレッジをかける投資機会が増えつつあるのに加えて、②ショートを振れる投資機会も増えていることが指摘できます。つまりこれまでヘッジファンドなどに独占されてきた投資ツールのデモクラタイゼーション(民主化)が起こっているわけです。このためFXは前年比80%成長くらいのペースでマーケットが広がっています。FXのサービスはマーケティングという面からも従来とは違う革新性を持っています。即ちホワイト・レーベルにより、FX会社は「配管(パイピング)」となるトレーディング・プラットフォームを他の業者に任せ、自社ではストア・フロントのみを提供するという、専らマーケティング会社の役回りに徹するということです。この機動性がFXを短期間のうちにブーム産業に仕立て上げたのだと思います。ホワイト・レーベルは今後、他の商品分野でもどんどん広がると思います。

2 件のコメント:

nametake さんのコメント...

ガンガン更新されてますねー
日本株は昨日大納会で1/5まで
オヤスミです。。。

日本では
正月>>>クリスマスですが
アメリカでは逆なんですよね確か

長年投資してる方の年初予想は
他のタイミングの予想より
あたってる確率が高いような気がします。
考える時間が長いからでしょうか。
踏み上げさんも「マニトワーク売る宣言」大正解でしたね。

楽しみにしています。

mon さんのコメント...

アメリカ分割論とはまた違う意味で、興味深い話でした。
これからの投資スタイルを決めるのにあたって、大変参考になりますね。