日本ではCFDは専ら個人投資家のツールですが英国や欧州ではヘッジファンドを中心に機関投資家もかなりCFDを利用しています。
機関投資家向けCFD市場は個人投資家向けの市場と少し異質な部分があります。個人投資家の場合、「CFDを使って、或る会社を乗っ取ってやろう」と思う人はまず居ないと思うのですが、プロのマーケットではCFDは企業買収ないしはグリーン・メールと呼ばれる、買い占めた株式を会社側に買い取らせて利喰うやり方の道具に使われる場合があります。
なぜCFDは買占めのツールとしてとりわけ利用価値が高いのでしょうか?
その理由はCFDの匿名性にあります。CFD取引では投資家は証拠金を積むだけですから購入した株式の本券は所有しません。CFD業者は機関投資家からの注文に応じ、出来通知をした後で、そのポジションをカバーするために本券を調達するケースが多いです。その株券は通常、CFDマーケット・メーカーの「自己勘定」ないし「マーケット・メーキング勘定」に在庫として保管されます。
するとその株券の名義人は所謂、「ストリート・ネーム」、つまり証券会社名義になるわけです。機関投資家の名義は従って会社側にはわかりません。つまり買い占めの事実は機関投資家本人とCFD業者のみしか知らないのです。
さて、その場合、CFDを通じて株式を大量取得した機関投資家が、その企業の経営者に大株主としての立場から圧力をかけられるか?という疑問が生ずるわけですが、これはむずかしい問題です。なぜならCFDの投資家は僅かな証拠金を積んだだけですからその投資家の本当の経済的利害を推し量るのは困難だからです。(実際に資金を用立てするのはCFD業者の方です。)
さらに言えば機関投資家市場におけるCFD取引の場合、CFD業者が全ての注文に現物株を手当てしにゆくことでカバー(=ポジションをヘッジすること)しているとは限りません。場合によっては部分的にしかカバーしないこともあるし、デリバティブなど、複数の投資ツールを合成して資金効率良くヘッジポジションをこしらえる場合も多いのです。(多くのCFD業者は投資家からの「現引き」のリクエストにはいつでも応えると約束していますが、実際には「現引き」のリクエストをすることは個人投資家の場合、皆無に近いし、機関投資家の場合でも極めてめずらしいです。)
さらにCFD業者は機関投資家から「株主投票に際しての指図は受けない」という内規を持っている場合が多いです。これはどうしてかというとCFD業者にはマーケット・メーカー特例という特別な免除規定があり、「マーケット・メーキング勘定」における或る企業の持ち株が10%を超えない限り大量取得の報告義務は無いからです。(注:英国の場合)
しかしひとたびCFD業者が機関投資家の投票指示を受け入れるとマーケット・メーカー特例を剥奪される危険があるのです。
英国では昔からCFDの持つこうした透明性の欠如が「市場機能の誤作動を誘発するか?」という問題が研究されてきました。10月にドイツで起きたフォルクスワーゲンの株価暴騰事件(ここでは「CFD」ではなく、その前身であるエクイティー・スワップが利用されたとされています)はある意味でそれに対する回答が実例で示されたと評価することが出来るかも知れません。なぜならこの事件ではポルシェ側の「真の経済的利害が確定しにくい」という点も問題として表面化したし、株主投票権の有無という問題も表面化したからです。
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