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2009年3月11日水曜日

NY株急反発の理由

3月10日の立会で米国株式市場が急反発しました。これには4つの理由があります。重要な順番から言うと:

1.アップティック・ルールを復活させるという議論が出ていること
2.ベン・バーナンキ議長のCFRにおけるスピーチがこれまでで最も包括的な内容だったこと
3.議会によるマーク・ツー・マーケット会計の調査をけん制する気運が高まったこと
4.シティのヴィクラム・パンディットの「公開状」

になります。

1.アップティック・ルールを復活させるという議論が出ていること
11:00時頃、バーニー・フランク議員(下院金融サービス委員会委員長、民主党、マサチューセッツ州)が「アップティック・ルールは一か月以内に復活させるべきだ」と発言しました。さらに
12:00時頃、証券取引委員会(SEC)は「アップティック・ルールを一か月以内に復活させる方向で検討する」と発表しました。そしてたたみかけるように
1:00時頃、クリス・ドッド上院議員(上院銀行委員会委員長、民主党、コネチカット州)が「SECのアップティック・ルール復活を支持する」と発表したわけです。

→アップティック・ルールの復活はたぶんマーケットにとって最も即効性のある処方であり、かなり効果があると思います。(これについては1930年代に大恐慌の教訓から最初にアップティク・ルールが設けられた時、かなり研究がなされました。それを2年前にアホな学者達が「アップティック・ルールはマーケットに与えるインパクトはゼロだ」という誤った研究を発表したのがきっかけで、このルールが廃止されたのです。アップティック・ルール廃止後のアメリカの市場は一貫して下がっています。もちろん、個別銘柄における「ベア・レイド(=カラ売り筋による投機的なアタック)」の成功例は山ほど報告されています。リーマンやモルガン・スタンレーに対するアタックは皆さんのご記憶に新しいところだと思います。)

2.ベン・バーナンキ議長のCFRにおけるスピーチがこれまでで最も包括的な内容だったこと
朝8:00頃からベン・バーナンキ議長外交問題評議会(CFR=雑誌「フォーリン・アフェアーズ」の出版元でもあり、アメリカの政治に深い影響力を持つ団体)の主催するミーティングでスピーチしました。

その中でバーナンキ議長は:

「アメリカ政府は金融システムの維持のために重要な金融機関が業務を継続できるようにするため、4つの具体的な方策を提言したい」

としました。具体的には:

①「大きすぎて潰せない」と言われる金融機関をどうするか?という問題
②証券取引、決済、支払いなどの金融システムのインフラ部分が危機に際してちゃんと機能するような方策を立てること
③金融行政や会計ルールが危機に際して困難を増幅するような(pro-cyclicality)方向で働かないように気をつけること
④金融システムのリスクを包括的に監督できる監督当局を設立すること


①の「大きすぎて潰せない」金融機関の問題についてはケース・バイ・ケースで酌量されるべきだというのがバーナンキ議長の主張でした。

②は言わば金融システムの「配管部分」であり、それがショックに耐えられるように設計することが大事だか、同時にモラル・ハザードや「大きすぎて潰せない」金融機関のところで「配管部分」に問題が生じ、それが結果として政府が救済に乗り出す羽目に陥るようなことを今後防がないといけないとコメントがありました。(=これは暗にシティ分割をほのめかしていると思います。)

③の金融行政や会計ルールとは具体的にはタンジブル・コモン・エクイティーの議論やマーク・ツー・マーケット会計の議論を指しています。バーナンキ議長の主張は景気が良く、金融業界の環境が順風なときほど銀行の資本規制や会計ルールはぎゅうぎゅう厳しい規制を課し、クッションをこしらえるべきだ。だけど「ひとたび危機が来たら、後付けのようにそれから資本規制を強化したって逆効果にしかならない」、「そういう時こそ、逆に規制を緩めてクレジット・クランチが起きないようにすべきだ」という意味のことを発言していました。これは「マーク・ツー・マーケット会計を調査する」と意気込む議会に対して「おれはそのやり方を支持しないよ」という立場を打ち出したことになります。つまりバーナンキ議長が議会をけん制しているわけです。

④についてはアメリカには通貨監督局(OCC)をはじめとする3つの監督当局に加え、州の銀行監督当局が管轄を分け合っており、それぞれの局の「縄張り」は個々の銀行の設立時の定款などに応じて複雑になっています。長年のM&Aでこの管轄の区分は極めてわかりにくくなっており、しばしば監視の「真空状態」を作ったり、監督局間の軋轢を生じたりしました。その一方でトータルで見た金融システム全体のリスクは誰も監督権限が無いなどの不都合を生じているわけです。

3.議会によるマーク・ツー・マーケット会計の調査をけん制する気運が高まったこと
9:30頃証券取引委員会(SEC)はマーク・ツー・マーケット会計の禁止を求めていないという消息筋のコメントをロイターがレポートしました。
9:30頃バーナンキ議長が「マーク・ツー・マーケット会計を禁止するという意見には反対だ」と述べました。
10:00時頃、シェルビー上院議員が「われわれ議員はマーク・ツー・マーケット会計のことをいろいろ詮索すべきでない」と発言しました。
11:00時頃、バーニー・フランク下院議員が「マーク・ツー・マーケット会計は改善の余地があるけど、もっと柔軟に援用されるべきだ」と発言しました。

4.シティのヴィクラム・パンディットの「公開状」
最近のシティ(C)の株安に業を煮やしたパンディットCEOが「このところの業績は良い」というレターを出しました。

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