☆ ☆ ☆

2009年6月18日木曜日

世界で最初の全面的なサイバー・ウォー(但しこれは「内戦」だけど)


シリコンバレーでは「いまイランで起こっていることは世界で最初の全面的なサイバー・ウォー(cyber warfare)ではないか」という議論が出ています。但し、国家間の戦争ではなく、イランの「内戦」というところがミソですけど。
もちろんこれまでにもサイバー・ウォーの例というのは存在します。2007年の5月にエストニアの政府機関が次々にサイバー・アタックの標的にされたり、去年の南オセチアの紛争の際、グルシアやアゼルバイジャンのサイトが攻撃されたりした例です。
でも今、イランを巡っておきている「いたちごっこ」はスケールの面でこれらを圧倒しています。
もともとイランという国は民度が高く、スタンフォード大学の教授によれば「世界で人口当たりのブロガーの数がいちばん多い国」なのだそうです。だからツイッターやフェイスブックや携帯のテキスト・メッセージを使いこなせる国民は多いのです。
従ってイランの選挙の結果がアフマディネジャドの勝利に終わったと発表されたとたんにサイバー・スペースは騒然となりました。そしてツイッターが「掲示板」の役目を果たし、次のデモの場所などの連絡業務に使われ始めたのです。イランの政府は上の図(出典:サンフランシスコ・クロニクル)のようにどんどん国内のコミュニケーション・チャンネルをシャットダウンないしスローダウンすることで改革派のコミュニケーションを妨害しました。しかしツイッター(Twitter)は海外のプロクシー・サーバーから投稿することが出来ます。ツイッターはいろいろな方法や経路から投稿できる「緩い」サービスなのでこういう場合、とりわけ抵抗力があるのです
サンフランシスコ・クロニクルの記事によると、サンフランシスコのIT企業に勤める或る社員はイランの情勢を見て稼働中のプロクシー・サーバーのリストをネット上で公開しました。イランの人がプロクシー・サーバーの所在を発見しやすくするためです。
ところがこのリストが公開されるやいなやイランの保守派がプロクシー・サーバーにアタックをかけ、次々にそれらをなぎ倒してゆきました。
「なかなかやるじゃん、イランの政府も」
このIT企業の社員はパスワードで守られたプロクシー・サーバーのリストを作り、ブログ上でどうやってプロクシー・サーバーをコンフィギャーするかの簡単な説明書きを掲載しました。
すると世界中から「このプロクシー・サーバーを使いなよ」というメールが寄せられたそうです。
さて、ニューヨーク・タイムズの社説ではトーマス・フリードマンの筆が俄然、冴えてきています。フリードマンは言うまでもなく『The World is Flat(フラット化する世界)』の著者ですが、あの本で有名になるずっと前から屈指の中東ウォッチャーとして名を馳せていました。だからテクノロジーと中東情勢の交差点の問題を読み解かせれば、やはりダントツに鋭い観察をします。
彼曰く、イスラム原理主義者たちにとって群衆を組織化し、或る考え方を植え付け、服従させるための「場」としてモスクを押さえているということは非常に強味だったそうです。これに対して「穏健派や改革派はいままで集う場所が無かった」のです。しかしツイッターやフェイスブックを通じて彼らは共通の居場所を発見し、そこが「バーチャル・モスク」になったので、もう組織力で負けることはなくなったというわけ。
こうした穏健派、改革派の勃興は世界中の「古い世界観に拠っているひとたち」を居心地悪くさせます。なぜなら冷戦とかアラブ・イスラエル抗争とかサウジアラビアに代表される王族の絶対支配や一党独裁をやっている国々にとっては共通の敵とか、既存のパワーバランスとか、外的脅威とか、そういう世界観こそが彼らの正当性や存在意義の原泉だからです。
その意味では今回のイランの事件を見て、サウジアラビアもイスラエルも中国も(こりゃ他人事じゃないな)とぶったまげていることと思います。
ところで2番目の円グラフは日本が石油を依存している先を示したものです。このグラフに出てくる上位5カ国の全てが王族支配やイスラム主義に立脚した政体を持つ国家であり、国内の穏健、改革勢力に対して脆弱性を持つ、不安定な構造の国家であることを指摘しておきたいと思います。

0 件のコメント: