元ソロモン・ブラザーズの伝説的トレーダー、ジョン・メリウエザーがまたまた新しいヘッジファンドを立ち上げます。今回で3回目。
彼の経歴を見るとかなり人騒がせな方であることがわかります。
メリウエザーは1991年に米国財務省証券の入札に際して、いんちきBidを大量に入れてマーケットをコーナリング(買い占めて値段を吊り上げること)した疑いでソロモンを辞めました。
僕はちょうど上の息子のお産でグリニッジヴィレッジのセントヴィンセント病院で徹夜した後、向かいのコーヒーショップで朝ごはんを食べようとしてウォール・ストリート・ジャーナルを手に取ると、その記事が出ていたので、この事件はよく覚えています。僕の勤めていた会社(ソロモンとは別のところ)も、そのコーナリングに一枚噛んでいたのではないか?という疑惑が向けられ、会社に行ってみると債券のトレーディング・ルームは重苦しい雰囲気でした。
そのメリウエザーはこのスキャンダルの後、さっさとヘッジファンドを創設し、ノーベル賞を取った学者とかをどんどんアドバイザーに引き入れ、LTCMと名付けます。
LTCMは98年に破綻し、米国連邦準備制度の根回しで救済されます。つまりベアスターンズみたいなことをすでに98年にやっていたというわけ。
このLTCMには日本の機関投資家も沢山出資していました。というよりノーベル賞とか、そういうブランド・ネームに弱い日本人の習性を徹底的にメリウエザーに利用され、うまく担がれたと言った方が「有り体」だったと思います。(そういう話をLTCMの関係者から聞いたことがあります。)
このメリウエザーはLTCMを墜落させた後、また新しいヘッジファンドをはじめました。JWMパートナーズというファンドです。
運用業界というのは面白い論理がまかり通るところで、「ジョンはLTCMでひとつ学習したわけだから、今度は立派にやるだろう」という考えから、多くの投資家が再びJWMパートナーに出資したのです。
しかしJWMパートナーは今回の金融危機でパフォーマンスが▼44%となり、メリウエザーはファンドを閉める決断をします。
さて、それから1年も経たない今日、メリウエザーは再び新しいヘッジファンドを立ち上げると宣言しているわけです。
僕にはメリウエザーが何故JWMパートナーを閉め、すぐに新しいファンドを始めるのかという理由がよくわかります。それはハイ・ウォーターマーク条項というヘッジファンド独特の成功報酬に関する規定が邪魔だったからに違いありません。
ヘッジファンドは普通、2&20と言って、年間の運用管理フィーが2%、そしてファンドが利食いになった部分に関しては、そのゲインの20%を胴元のヘッジファンド・マネージャーが成功報酬として取るということが慣習化しています。
但しその利食いの起算する地点として、まず「或る投資家がそのファンドを購入して最初にヤラレになった場合、その含み損をぜんぶ挽回してからでないと成功報酬のカウントは始まらない」という規定が挿入されています。これがハイ・ウォーターマーク条項なのです。
年金などの投資家からすれば、ヘッジファンドが下落した場合、ヘッジファンド・マネージャーはそのリスクを年金などの外部投資家と「分かち合い」ません。つまり損は全部、年金の損になります。
その一方で利益が出た時は、年金はその100%にありつけるのではなく、ヘッジファンド・マネージャーの成功報酬(20%)を差し引いた、残りの8割だけしか受け取れないのです。
こういう非対称なリスク・報酬体系を「アシンメトリック・コンペンセーション・ストラクチャー」と言います。ヘッジファンドがその運用者にとって「オイシイ」理由はここにあります。
すると年金などの投資家は「それじゃ不公平だ」ということになり、この不公平さを解消するためのひとつの方便として上に説明したハイ・ウォーターマーク条項でヘッジファンド・マネージャーを縛るわけです。
しかしヘッジファンド・マネージャーはある年、ファンドが下落して大損したら、歯を喰いしばってパフォーマンスをテコ入れするような呑気なことは、しません。
なぜなら若しファンドが50%ヤラレたら、次に100%上昇しないと元に戻らないし、その間、成功報酬をお預けにされてしまうからです。
そんなことをするくらいなら、サッサと投資家にお金を返し、ファンドを閉めて、また新しいファンドで「累積損ナシ」のきれいなスタートを切った方が、のっけから成功報酬を受けられるのでウハウハなのです。
つまり何度も失敗しているメリウエザーみたいな奴がまたぞろファンドを立ち上げると言ったとき、懲りずにすぐにお金を持って馳せ参じる馬鹿な機関投資家が居なくならない限り、このゲームは続くのです。
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