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2009年11月15日日曜日

きみ、それは「終わりの始まり」だっ!





為替の問題は複雑です。
僕がニューヨークの投資銀行に勤めていた頃の話をします。
或るラテンアメリカ企業がIPOするのでロードショウのランチ・ミーティングを行いました。僕はそのホストのひとりとしてテーブルに同席した機関投資家のお客さん達と名刺を交換し、チョッとした世間話をしました。
で、マーケットの話になったので僕はこう相槌を打ったのです:
僕:「そうですね。最近はペソも強いですし、これは株式の投資家にとってはプラスの要因ですね。」
そのとたん、この機関投資家に大声で:
「きみっ!馬鹿なことを言うんじゃない。相場をぶち壊しにするのは君みたいな不注意な連中なのだ。」
とたしなめられました。
僕はまず目が点になりました。(お、オレ、何か相手の気分を害するような事、言ってしまったかしら?)
気がつくと周りのテーブルの人たちも僕らの方を注視しています。2つ向こうのテーブルに座っている引受部長も「キッ」とした目で僕を睨みつけています。
(や、やべぇー)
それにしても解せないのは、なぜ僕の言葉がこれほどその投資家を怒らせたか?ということです。
今から思い返せば、あのときの発言がいかに「しろうと丸出し」だったか、その事にすら自分はぜんぜん気が付いていなかったわけで、それを想うたびに顔が火照ってくるほど恥ずかしくなります。
ペソがグチャグチャに崩れたのはそれから間もなくでした。
そして僕は自分の未熟さと、このお客さんの懸念していた事を噛みしめたのです。
お客さん:「きみ、為替の上昇を取りにゆくという投資戦略は新興国投資で一番くだらない素人丸出しのやり方なんだよ。Never forget that!」
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さて、最近、ブラジル株が好調です。僕はブラジル株の相場は若いと思っているし、まだこの先何年もプレイできる息の長いストーリーだと思っています。
でもブラジル・レアル(一番上のグラフ)が強いので、ブラジル株の上昇と相まって「ダブルで儲かる」という議論は事実には違いないのですけど、そこには危険が孕まれています。
なぜなら通貨の上昇は新興国の輸出競争力を大きく削ぐからです。
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少し角度を変えて通貨の問題を見てみましょう。
例えば読者の皆さんからよく聞く感想として:
「アメリカ株はどうもね。だってドル安が怖いから。」
という指摘が多いです。
で、同じ本人が:
「だから僕は中国株で行く!」
と宣言するわけです。
(?)
僕は一瞬、相手が何を言っているのか呑み込めなくて、思考が交錯する気持ちを禁じえません。
(だって、、、香港ドルも人民元もドルにリンクしているのに、、、、)
上の2番目のグラフは「人民元と円」、3番目のグラフは「香港ドルと円」、4番目のグラフは「ドルと円」です。基本的に皆、似たようなチャートになっています。これは偶然ではなく、人工的にペグ(固定)されているからです。
つまり中国株ならドル安リスクとは無縁だと考える個人投資家は、そもそもペグという概念自体を理解していないということなのでしょう。
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或る新興国が管理相場から変動相場に移行するということはその国の資本市場の発展の上で必要なことかも知れません。でも変動相場制への移行は「おたのしみのはじまり」ではなく「終わりの始まり」なのです。




1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

為替は、いずれペッグが外れると読んでいる専門家もいます。一概に、すべての個人投資家が「ペグという概念自体を理解していない」とは限りません。