このブログでも何度かそのことについて取り上げました。
今日はちょっと違う角度からこのお馴染みの話題を論じてみたいと思います。
僕が証券会社に入った頃はいわゆる「株ファン」のお客さんは歯医者さんであったり、ちょっとした事業をやっている社長さんなどでした。「資産家」という風に言い換えても良いでしょう。
この顧客層は今でもたくさんお金を持っているし、相変わらず証券会社にとって最も重要なターゲット顧客だと思います。
しかし誰がお金を持っているかという事は株のセールスマンにはすぐわかりますから、お金持ちのところへはいろいろな証券会社のセールスマンが競って駆けつけます。つまり競争の激しい世界なのです。資産家を相手にするビジネスは従来型証券会社間でのゼロサム・ゲームであると言い直しても良いでしょう。
折しも世界経済は大きな不況から立ち直り、再び成長してゆけるような局面にさしかかっています。これは株にとっては良いことであり、その意味では証券業界の見通しは好転しつつあると思います。
このような場合、証券界の人間は僕を含めて物事をシクリカル(市況的)に捉えすぎるところがあると思います。「景気さえ良くなってくれれば、、、」あるいは「相場さえ良くなってくれれば、、、」という発想です。
しかしセキュラー(長期)なトレンドを考えれば、日本の証券界は大きな課題を抱えていると思います。
その第一の理由は上に述べたような伝統的な資産家のお金は今後遺産相続という形で次の世代に引き継がれてゆく局面を迎えるということです。
現在、対面型証券会社を利用している個人投資家の大半は高齢なのでパソコンなど余り得意ではないし、どちらかといえばセールスの人に相談しながら投資を進めることに安心感を持つと思います。預かり資産の金額ベースでは、相変わらずこのようなお金が日本の個人投資家の資金力の大半を占めていると思われます。
しかし資産家が死んで、子供の世代にそれが引き継がれた場合、PC世代に育った若者たちは対面型証券会社のサービスに満足するでしょうか?
またネット証券と対面型証券会社との間の手数料率の格差は大きすぎる気がします。別の言い方をすれば取引コストの面では対面型証券会社は全く競争できないということです。
日本は90年代からずっと低成長が続いており、年金システムに対する長年累積したプレッシャーは相当なストレスになっています。その一方で派遣社員へのシフトなど、雇用形態の変化も粛々と進んでいます。また長年の超低金利で銀行にお金を預けるということは運用でも何でもなく、ペナルティーの意味しかありません。
つまり20代、30代の若い層の人たちは、何かドラスチックに違うやり方を考えねばならない瀬戸際に追い詰められていると思うのです。
だからFXの流行は、そういう鬱積した若い世代のフラストレーションが「解放された」瞬間だったのではないか?と僕は思うのです。
さて、FXの顧客調査などを見た金融界のにんげんの反応は、「なんだ、口座当たりの資金量が小さいじゃないか!」という、半ば馬鹿にした、顧客を見下した態度です。
証券界には「板汚し」という隠語があり、その意味するところは売り物、買い物の板を汚すようなちっぽけな注文です。証券マンにとってそういう小さい注文はぜんぜん手数料にならないし、手間ばかりかかる、迷惑な存在なのです。
従来型証券会社、都市銀行、信託銀行などに勤める金融マンのホンネは(FXやCFDやETFなど、本来資産家裕福層とは余り関係ない商品は、余り流行って欲しくない、、、それらは従来型商品のマージンの圧迫要因になるだけだ、、、)というところにあるのです。
顧客は大きければ大きいほど良いし、手数料マージンは厚ければ厚いほど良い、、、これが日本の証券界に根を下ろした昔ながらの価値観なのです。だから株式の売買の手数料率が下がり、うま味がなくなれば、ベテランの証券マンが恥もせず投資信託ばかりプッシュするということが横行するわけです。
例えば若い人の間で流行しているシストレなどは僕を含めたそういうベテラン証券マンに対して「NO」を突き付けられているという風にもある意味解釈できると思うんです。かれらは少なくとも証券マンよりはいろいろ知恵をひねって勝てる方法を工夫・考案しているし投資に関する向学心も強いです。
してみれば今後の日本の証券界が取り組まないといけないのは50万円、100万円というタネになる投資資金をやっとの思いでこしらえて、それを非伝統的なアプローチで増やそうとする若い世代にツールを提供するということではないでしょうか?
彼らはひとりひとりの資力は限られていますが、「自分もやってみたい」と思う参入予備軍、つまり潜在顧客は無数に居ると思います。つまりゼロサム・ゲームではないのです。僕はこの若い層の投資ビヘイビアを「カジュアル・トレーディング世代」と呼んでいます。
その需要を効率的に掘り起こすためには、対面型証券会社の費用構造ではムリです。そのことは上の2つのグラフ(週刊東洋経済の記事から作成しました)が雄弁に物語っています。
【Companies to watch:注目すべき会社】
上の「顧客基盤収益力」のグラフを見ると既に対面型証券会社のビジネスモデルが破綻しはじめていることを予感させますが、その中で従来型の証券会社である光世証券の収益力が光っています。この会社は昔からそうでした。これはトップの経営手腕が際立っているためです。
光世証券を除けば上位は大体、ネット証券が多いです。
インヴァスト証券は「ネットによるデリバティブハウス」というビジネス・モデルを鮮明に打ち出しているのが成功していると思います。両方のグラフで首位。『くりっく365』など新しい商品を積極的に取り入れています。
僕の知る限りではデリバティブハウスという切り口でニッチを確立しようと努力している企業はインヴァスト証券の他にひまわり証券があります。この会社は投資家教育に極めて力を入れており、ビデオによるユーザーとのコミュニケーションでは学ぶべきものが多いです。(とりわけ「なべとーく」は必見。)
この2社がデリバティブの両雄になると思います。
「手数料収入増減率」、「顧客基盤収益力」でともに3位につけている楽天証券は「マーケットスピード」という伝説的なトレーディング・プラットフォームを持っています。
また同社の前身はDLJディレクトというアメリカのネット証券であり、DLJとはドナルドソン・ラフキン・ジェンレットの略です。ドナルドソン・ラフキン・ジェンレットは米国で最も尊敬されるリサーチ・ハウスのひとつでした。そのことも関係してか楽天証券は堀古英司さんはもちろん、日本株の大島和隆さんや為替の石川順さんなど、すべての方が極めてグローバルな視点から投資という問題を捉えているところに他社とは違う点があります。国際分散投資の雄。
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