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2009年9月12日土曜日

独立FAの仕事のむずかしさ




アメリカの金融サービス業には存在して、日本には無いもの、それは独立フィナンシャル・アドバイザーという仕事です。
そう書くと現在日本で独立FAをやっている皆さんからお叱りを受けると思います。
ですから、もう少し正確な書き方をすれば:
アメリカでは独立FAという職業が大流行し、しかも独立FAさんの多くはそれだけで生計を立てられている(いや、それどころかすごくいい暮らしをしています)にもかかわらず、日本の独立FAさんは、公認会計士と兼業するなどの工夫をしないと専業FAとして喰って行くのはとても苦しい、、、
ということになると思います。
なぜ日本では独立FAという仕事がテイクオフしていないのか、これに関しては2つの大きな理由があると僕は個人的に考えています。
ひとつはそもそも日本人の金融資産は「中くらいの金持ち」の人が多く、FAがターゲットにすべき裕福層がそれほど多くないという点です。
もうひとつは独立FAの仕事の舞台装置になるインフラストラクチャを提供する企業が少ないという点です。
このうち今日特に問題にしたいのは後者です。
アメリカの場合、メリルリンチやアメリプライズやスミスバーニーなどの総合証券に勤めている営業マンは、ある程度顧客がつくと独立します。特に公正中立なアドバイス、端正なサービスを目指す、まじめな営業マンほど早い時期に見切りをつけ、旗揚げするのです。
その理由は証券会社のお抱えの投信会社の商品はパフォーマンスが一般に悪く、「自社商品を売れ」という上からの圧力に辟易して辞めるケースが多いからです。
あくまでも一般論ですが、アメリカでは証券系や銀行系(=つまり親会社となる金融機関がある)の投信は一般にパフォーマンスが悪いし、世間からも馬鹿にされています。その理由は少々パフォーマンスが悪くても営業隊が資産を獲得してくるので、それに安住してしまうからです。(なお日本の場合、ほとんどがこれにあてはまります。)
アメリカの個人投資家はそういうことを熟知しているので、例えばモルガン・スタンレーの営業マンがディーン・ウィッタ―(モルガンの子会社で、パフォーマンスが駄目なことで有名)のファンドをプッシュしようものなら、すぐに「ぷいっ!」とソッポをむいてしまいます。
そういう事にホトホト嫌気がさした連中は辞表を出すわけです。
すると上司は「そうか、わかった。独立おめでとう!ところで顧客資産の預かりは、ウチを使ってくれないか?」と頼むわけです。
つまりこの営業マンはモルスタを退社して、自分の名前を冠した投資アドバイザー会社を設立するのですが、自分がひきつれて独立するお客さんの預かり資産は引き続きモルスタをカストディーとして使用するということです。
独立したFAはそうやってたいてい最初の1~2年は昔自分が働いていた証券会社を引き続きカストディーとして使用します。最初は事業の継続性などの観点からそうした方が良いということもあります。
でも「モルスタ」から「ジョン・スミス・アドバイザーズ」にカンバンが変わった後でも、顧客の大半が自分のところに残ってくれるということを確認した後、いずれもっとコストの安い業者に鞍替えします。その業者とは例えばチャールズ・シュワッブであったり、LPLというFA専門のサービス業者であったりするわけです。
上のグラフはチャールズ・シュワッブの資料ですが、例えば上から2番目の同社の顧客預かり資産を見ると、通常のネット証券の部分(=個人投資家サービス→青)と、独立FA支援サービス(赤)がほぼ同額になっています。
なお、ネット証券はデイトレの人が多いので、売上という観点(一番上のグラフ)では個人投資家サービスの方が多くなっています。これに対してフィナンシャル・プランナーは長期での資産形成のアドバイスをするわけですから、手数料は余り落とさないわけです。
しかし3番目のグラフのグロスマージンを見ると独立FA支援サービスのグロスマージンは極めて高いことがわかります。これはFAの使う情報端末や事務所費用などは証券会社は払わなくて良いからです。
日本のビジネスの慣習として、目に見えないサービスやノウハウやアドバイスに対しては対価を払わないということが定着しています。(もちろん、アメリカにもある程度、それはあります。)
なのでよく日本の独立FAさん達がやっているような、「一回幾ら」というコンサルティング・フィーを取るビジネス・モデルは、もうその時点で敗北していると言えるでしょう。
一方、ネット証券の立場からものごとを考えると、顧客資産を預かるインフラストラクチャを構築するのはとても初期費用のかかる試みです。ひとたびインフラが出来てしまえば、追加的に顧客口座や預かり資産が増える際の限界的な費用負担の増加は微々たるものです。するとせっかく構築して、キャパシティー一杯までフル稼働していないインフラを遊ばせておくのは無駄なことなのです。
アメリカの金融機関にはそういう発想が強くありますので、この機能を貸し出そうという意欲はどの企業もすごく高いです。(ある意味、アマゾンやグーグルがクラウド・コンピューティングのキャパシティーをレンタルに出すのと同じです。)
翻って日本を考えると、そういうことをやっている金融機関は殆どありません。僕が知っている限りでは日興コーディアルと楽天証券だけです。
従来型金融機関はなるべく閉じた世界を維持したいと思うでしょうから、キャパシティーのレンタルはやりたくないのは当然でしょうけど、ネット証券からの参入が少ないのは解せないですね。
また独立FAの人たちがそういうキャパシティー・レンタルのビジネスを余り利用していないのは、やっぱり工夫が足らないと思います。

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