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2009年9月13日日曜日

PER、PBR、ROEの議論 (付け加えること)



春山さんのこの記事に触発されたので少し書きます。(笑)
春山さんの記事は一見すると株価評価談義のように見えるのですけど、そこで投げかけられている問題は「日本企業はどうあるべきか?」という根源的な問いかけであり、これは重大な問題です。
(しかしこの手のことを書かせれば春山さんは超一流ですね。)
加えてPERやPBRなどの投資尺度は日頃軽々しく取り扱われることが多いですが、実際にはその援用は複雑で、ニュアンスに細心の注意を払いながら行われるべきものであることも彼の記事から窺い知ることができると思います。
PERについて
PERが使いこなせるようになるには最低でも10年くらい株式投資をして、経験を積む必要があります。
なぜそう言うか?というと、そのくらい長くやれば、たぶん景気後退局面を一度くらいは経験するだろうから、その場面で一体、PERにどんなことが起きてしまうかを、身を持って体験できるからです。
PERは有効な尺度だと思うし、利用価値は高いです。でもそれは①その尺度を援用する際の経済の流れ、企業の状態などの文脈をわきまえていて初めて意味があるのであり、②丁寧にノイズを除去する作業を怠れば、PERは全くつかいものにならない尺度であるばかりか、場合によっては危険極まりない凶器となると思うのです。
先ず、マーケット全体のPERについて面白い研究があります。
イェール大学の教授でバブル研究で有名なロバート・シラーの調査ではPERと株価の関係はR2、つまり相関係数で0.40しかありませんでした。調査期間は1872年から2005年までです。
但しシラーの研究はスムージング化したPERを使っているので、もしスムージングしていないPERをあてはめると相関係数は0.03に落ちます。つまり全く役に立たない(!)ということ。
(昔、インヴァスト証券のセミナーで使った、上の3枚のスライドを参照してください。)
ただ、全く役に立たなかったのは当たり前で、ノイズを除去する作業をしていないから、そういう結果になったのです。
少しでもその時の経済の流れをわきまえた援用をすれば、この尺度の有効性は幾分改善します。そのひとつのやり方がそのときの市中金利との兼ね合いを念頭に入れるという方法です。その比較をしやすくするためにPERをひっくり返して「益回り」を使う方法があります。
PERの逆数、つまり1をあるPERの数字で割り算すると益回り、アー二ングス・イールドが求められます。
こういう表現にするのは利回りや債券の金利などとの比較がしやすいからです。
市中金利(大体10年債を使う場合が多い)より益回りが大きいときは株式が魅力的な水準であることが多いです。
こういう市中金利との比較という文脈の中では、「ほとんど役に立たないPER」もある程度役に立ち始めます。
但し、利回りと同じで、あきらかに大きすぎる益回りはなにか問題を抱えている場合が多いので信用してはいけません。(なお益回りは法人税引き後の数字であり、市中金利は税引き前であることに注意。 )
PBRについて
次にPBRについて考えます。
PBRは或る企業が商売をする上で持っている資産がどのくらい収益を生み出す力があるか?ということに対する、世間の評価だと言えます。ただ業種によりPBRが重要な業種と、そうでない業種があります。
たとえば銀行業というのは「お金がお金を生む」タイプのビジネスですので、PBRという尺度は極めて重要です。
また石油会社のように自社の所有する地下資源(=資産=Book)を掘り出し、それを売却したキャッシュを再投資することで「含み」を育むタイプのビジネスにおいてもPBRはカギを握る尺度です。
反対にソフトウエアや知的所有権など、現代の会計システムがその真の価値を捕捉するのに余り得意じゃない分野においては、PBRの有効性は極めて怪しくなってしまいます。
もっと平たい言い方をすれば、バイオやインターネットなどのビジネスではPBRは何の意味も持たないということです。
PBR とROEの関係について
さて、上の説明で「含みをはぐくむ」という話をしましたが、これはPBRを投資尺度として援用する場合、大事な視点だと僕は日頃から考えています。
「含みをはぐくむ」ということは別の言葉に言い換えると内部留保を増やすということです。
そのためには利益の余剰金がどんどん積み上がることが理想ですから、積み上がりのペースが速い会社ほどブックバリューが増えるのが早くなります。
この、利益の積み上がりの速い会社とは、つまりROEの高い会社のことを指すのです。
別の言い方をすれば:
①簿価が増えているのか、減っているのか?その方向性が大事だ
②PBRが安くてもROEが低いようでは株価は騰がらない
ということになるのです。
信頼の置けないブックバリューとは?
次にPBRの「B」、つまりブックバリュー(簿価)は、堅いブックバリューと、あてにならないブックバリューがあります。
例えば1980年代、日本がバブルに踊った頃のブックバリューはあてにならないブックバリューの典型です。なぜなら証券会社にそそのかされて転換社債を発行し、そのお金で他の企業の株式を持ち合ったり、不動産投資をしたり、利益を生むのに全く貢献しない社員保養所を建てたりということが横行していたからです。
この場合、そうやって追加される資産が、将来の含みをはぐくむことにつながると認められるためには資産バブルが続くという前提が存在しなければなりません。
逆にデフレ的な状態だとブックバリューの破壊がおこるのです。
現在の日本は引き続きデフレ的な兆候があちこちに見えています。ですからマクロ経済的にはPBRを株式投資に援用しにくい環境が続いているとみるべきでしょう。
空気の入れ換えの必要性
また、ブックバリューというのはときどき「世間の通り相場が幾らか?」という見地から値洗い(=再評価)されるべきものです。
バブル時代に建てた社員保養所の価値は、その後のバブル崩壊時にはみるみるしぼんでしまったと思います。
その場合、もう過去の価値をその資産が保持していないにもかかわらず、帳簿上は昔の簿価のままで資産が計上されているということだと、そのブックバリューそのものが信頼の置けない存在になってしまうのです。
つまりPBRが割安放置されているということが示唆するひとつの可能性としては、投資家全般がその企業の簿価自体を信頼していないことを意味するのです。
LBOとかM&Aなどは企業の簿価の見直しを迫るきっかけになります。
するとそういうディールの少ない国は賞味期限が切れて、カビが生えた食パンのように「PBRから見た割安」という概念自体が毀損してしまうリスクを孕んでいるのです。

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