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2009年9月7日月曜日

アメリカのFX会社のIPO目論見書からわかること




「FOREX.COM」を運営しているゲイン・キャピタルが「S-1」、つまりIPO目論見書をSECに提出しました。
所謂、マルチ・プロダクト・トレーディング会社であるインタラクティブ・ブローカースのような証券会社の上場例は過去にありますが、米国での個人投資家向けFX会社のIPOはこのゲイン・キャピタルが初めてだと思います。
ロンドンではIGグループなどが既に上場されており、FSAにディスクロージャー書類が提出されています。でも英国のディスクロは情報が乏しく、読んでもあまり面白くありません。
そこへゆくと米国のディスクロージャー基準は厳しく、必ずしも発行企業にとって公表したくない情報でも弁護士が「公表しなさい」とアドバイスした、経営に関する重大情報に関してはいやいやながら公表されています。
このためIPOの目論見書はアニュアル・レポートなどに比べてもとりわけデリシャスな情報が含まれている場合があります。
さて、前置きはこのくらいにしてゲイン・キャピタルのディスクロ内容なのですが、僕が特に面白いなと感じた第一番目のポイントは顧客からFXの注文を受けたとき、それを実際、どのくらいカバーしているか?という点が明らかにされている(!)ことです。
ゲイン・キャピタルが顧客から注文を受けた際、ドイツ銀行やUBSなどのトレーディング・パートナーに向き返って反対売買(=カバー)している比率は5%に過ぎません。(一番上の円グラフ参照。)
FXの場合、(この数字はかなり低いだろうな)と思っていたのですが、実際には僕が考えているよりさらに低いカバー率だったので、チョッと驚きました。
なお、「管理されたフロー」というのは、わけのわからない日本語ですけど、原文ではmanaged flowという言葉になっています。平たく言えばFX会社店内に滞留している、顧客注文から発生したポジションのことで、その大半は「売り」と「買い」が混在することで差し引きのネットエクスポージャーはチャラになっている筈です。
つまり個々の顧客注文をいちいちつなぐのではなく、会社全体としてのポジションの偏りが無いようにリスク管理しているという姿勢ないしは手法がこのディスクロージャーから明らかになっているということです。
なお、これはゲイン・キャピタルの話から逸れますが、一般論としてエキゾチックな通貨など、「銘柄」が増えると実際に反対売買してカバーする必要性は増すと思われますし、流動性の低い通貨や証券、さらにボラティリティーの高い通貨や証券の注文が来たときはカバーする必要が高まると言えます。その点、たとえばCFD取引ではカバーの必要性はFXとは比較にならないほど高い筈です。
あと興味深いデータ・ポイントとして、顧客が発注画面をクリックしたとき、その注文がどのくらい却下されるか?という統計(=却下率)があり、少ない月で8%、多い月で注文の15%が却下されるというディスクロージャーがありました。
この統計なども会社側が出来れば公表したくないデータだと思うんです。
但し、却下率の計算にはマーケットの環境などによる理由に加えて、顧客の証拠金不足など顧客側の事情による却下の数値がまとめて報告されています。おそらく却下の過半数は証拠金不足などの「発注間違い」だと思いますが、ピュアな「約定拒否」の存在を窺わせる、示唆に富んだディスクロだと思いました。
次にスプレッドに関する記述にも興味深いものがありました。S-1によるとゲイン・キャピタルのスプレッドは売り出し目論見書の参考例では2から5ベーシス・ポイント(=$0.0002から$0.0005→これをFX独特の言い回しで2ピップスとか5ピップスと言う場合もあります)でした。(スプレッドは状況によって伸縮すると思います。)
建値の算出方法としては三番目の表にあるように①複数のホールセールのトレーディング・パートナーから建値を取得し、②その中間点(mid-point prices)を算出します。③その基準中値に2ピップスから5ピップスのスプレッドを乗せ、それをゲイン・キャピタルのクウォートとして表示するわけです。
一番下のダイヤグラムはゲイン・キャピタルのプライシング(価格決定)・エンジンへのホールセールからの情報フィードならびに注文のフローを示しています。
最後にホワイトラベルに関してですが、ゲイン・キャピタルの売り上げのうち、32%がホワイトラベルならびに「紹介ブローカー」などの間接のフローであることがディスクローズされています。このうち上位5社のホワイトラベル・パートナーが総売り上げの15%を占めています。


3 件のコメント:

さんのコメント...

質問ですが、
顧客からのFX注文を受けたとき、
どうしてその会社がカバーにはいるのでしょうか。。。
顧客の注文どうしで、
スプレッドの調整が入ることで、
買い手と売り手がマッチしますよね。
(それで完結しないのでしょうか。)

また、そもそもFXというビジネスは、
顧客から、レバレッジをかけた部分の利子で稼いでいるわけですから、、、

証券会社がインサイダー的なことをして、
微額ながら、稼いでるんですかね.

また、その場合は、反対売買は
ロボットがしているのでしょうか。
人間がしているのでしょうか。

少し長くなりましたが、お願いします。

広瀬隆雄 さんのコメント...

敦さん

ご質問ありがとうございます。
敦さんのお察しの通り、通常は顧客からの売りと買いがほぼ半々だと思うので、店内でのフローが偏った場合だけカバーすれば良いと思います。

ゲイン・キャピタルのIPO売り出し目論見書の中にも「いちいち全部の注文をカバーするのはコスト的に見合わない」とハッキリ書いてありました。

FX、CFDとも収益の大部分はスプレッドであり、金利収入はスプレッド収入より小さいと思います。

ビット・アスク(ないしはオファー)を提示して、顧客に立ち向かう行為はマーケット・メーキングと呼ばれます。

すると「客向かい行為だ」という風にすぐに悪いイメージに結びつくのですが、実はマーケット・メーキングは実業界のどこにでもみられる商取引であり、資本主義の最も基本的な姿です。

たとえば中古車ディーラーが中古車を買い入れ、それを別の人に転売する行為もマーケット・メーキングにほかなりません。

いま、中古車ディーラーだろうが神田の古本屋だろうが、仕入れ値より高い値段で再販しない業者は居ないわけで、その意味においてはマーケット・メーカーがスプレッドを確保するという行為は極めて正当かつ自然なことなのです。

ただ、昔、まだ日本の証券市場が十分に整備されていない頃は証券会社と一般個人では取り扱われている証券の価格情報へのアクセスという点で重大な落差がありました。

その価格情報のごまかしの余地の大きいことがマーケット・メーキングという商い手法をすごく不公平なものにしていたのです。

昔、日本の証券界で口癖のように言われていた、「市場集中原則」というのはそういう不利益を一般投資家が蒙らないようにとの配慮で決められた、鉄の掟だったのです。

しかし、いまや時代は変わりました。

まず価格情報はインターネットで瞬時にだれでもアクセスできるので、それでウソをつくことは極めて困難になっています。

また業者間のスプレッドの比較もネットのお陰で比較的容易になりました。

さらに先の金商法の改正で「最良執行原則」が定められたため、悪徳な業者が栄える危険性はかなり低下したと考えて良いと思います。

それが証拠にマスコミを賑わす詐称事件のたぐいは、いずれも訪問販売や電話勧誘など、昔ながらの方法での手口が殆どです。これはそもそもインターネットを使わないお年寄りとか、価格情報に極めて疎い人などをカモにしたやり方です。

少し話が逸れましたが、FXやCFDに代表される相対取引、ないしは証拠金取引は今後もどんどん増えると思います。

なぜなら上に述べたような顧客保護の注意点さえしっかりおさえておけば、これほどエレガントで効率の良い商い仕法は他に無いからです。

効率が良いということは長い目でみれば個人投資家にとっても取引コスト面で有利なトレード機会が提供できることを意味すると思います。

さて、反対売買ですが、私はFXやCFDの会社に勤めたことはないのであくまでも想像で書きますが、かなりの部分は人間がカバー・トレードを執行していると思います。

なおCFDの場合、日本のCFD会社はすべて外国から執行エンジンの提供を受けており、個人投資家の注文はすべて日本の会社を経由して米国のGFT社、英国のCMC社、デンマークのSAXO銀行などのコンピュータに直結していると思います。従って、カバー取引はそれらの業者がロンドンやコペンハーゲンでやっている筈です。

さんのコメント...

踏み上げさん

丁寧な解説をありがとうございます。
そうですよね。
中古車であれなんであれ、
その市場を提供している存在であれば、
スプレッド(仕入れ値と販売値)が
発生するのは当然です。
単なるボランティア、、じゃないですから。

金融商品は目に見えないだけに、
懐疑的に捉えてたようにおもいます。