ロシアの天然ガス会社、ガスプロムについて書きます。同社は世界最大の天然ガスの確認埋蔵量を誇っており、29.8兆立方メートルの埋蔵量となっています。これは世界の埋蔵量の6分の1にあたります。生産量という面から見ると世界の天然ガス生産量の実に19.8%がガスプロムによります。同社は延長15.5万キロメートルのパイプライン網を持っています。同社の売上の約半分は欧州に対する輸出から来ます。同社の天然ガス田の大半は西シベリア地方にあります。
なぜ今、ガスプロムに注目するかというと今年新興国の大企業の中で同社が最も資本市場面、ならびに地政学的な見地からリスクを孕んでいると考えるからです。
まず同社はダントツでBRICsの企業の中でも負債額が大きいです。おおまかな比較をすると、中国、インド、ブラジルの全企業の負債総額を足し上げた数字とガスプロム1社の負債額がほぼ同じです。同社の負債の少なからぬ部分は欧州の金融機関からの借り入れです。
僕がガスプロムの状況に興味を持った直接のきっかけは資金繰りの都合で一時社員に対するお給料の支払いが滞りかけたというニュースを目にしたからです。
「まさか、あのガスプロムが?」ちょっと最初は信じられませんでした。
しかし同社は新規の設備投資に莫大な予算をコミットしており、お金が幾らあっても足らないことは以前からわかっていたので、良く考えてみれば最近の原油安(=同社の天然ガスの輸出価格はブレンド原油の価格に緩く連動しています)でキャッシュフローの問題に陥っても不思議ではありません。
それと年の瀬にガスプロムがウクライナへのガスの供給を「相手側の契約違反」を理由に止めたというニュースがありました。ウクライナはガスプロムの天然ガス・パイプラインが最初に通過する外国です。パイプラインによる天然ガスの輸出は「トコロテン」式にパイプラインに詰めてぎゅうぎゅう押し出すやり方ですから、ウクライナへの供給を止めるということは暗に「西欧もどうなっても、知らないよ!」と脅しているのと同じです。これも僕がガスプロムの今後の動静に注目している理由です。
さて、一番上のパイ・チャートはガスプロムの天然ガスが誰に売られているかを示したものです。ボリューム・ベースで約半分がロシア国内に売られています。CISというのは旧ソ連圏ですね。ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなどがここに入ります。
その他海外の多くはヨーロッパの国々で、ドイツ、トルコ、イタリア、英国、フランスなどが主要顧客です。先ほど、売上高の約半分が欧州から来るといいましたが、このチャートをみるとボリューム・ベースではその他海外は29%に過ぎません。するとこの緑の部分、つまり欧州向けは国内の販売価格よりかなり高い値段で売られていることがわかるわけです。これがガスプロムのストーリーを理解する上でまず最初の大事なポイントです。
つぎに2番目のチャートを見るとロシア国内での販売分については電力会社向けが36%と一番多いです。一般家庭は16%です。この部分はなかなか値上げできないと思います。
なお、一般家庭や公共部門をのぞいたロシア国内の天然ガスは2011年までにマーケット・プライス、つまり国際市況と同じ値段まで値上げしたいというのがガスプロム側の願いです。この場合、公共性の強い電力会社などはなかなか値上げできないと思います。そこで発電をこれまでの天然ガスから石炭タービンへとスイッチするということがロシアで今後推進されると思います。すると余った天然ガスをより有利な輸出へ回せることになるわけです。
つぎに生産ならびに輸送のサイドをみてみましょう。3番目の地図ですが、これはガスプロムの欧州向けのパイプライン網ならびに欧州における貯蔵施設の分布を示しています。このようにパイプラインを通じてガスプロムは欧州のエネルギー供給に既にがっちりと組み込まれているわけです。
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