当初財務省が予想していたよりアメリカの銀行の資産内容の劣化のペースは速いです。それに対する漠然とした不安が市場にくすぶっているため、先週の立会いではアメリカの銀行セクターだけが他のセクターより大きく「陥没」しました。のど元過ぎたと思われた米国の金融危機が再燃する危険性が高まっていると言い換えても良いでしょう。
こうした危機感の中で財務省、連邦準備制度、連邦預金保険公社(FDIC)、オバマ政権の閣僚達は新しい危機対応策を練っています。その核となる考え方は:
1.アグリゲート(集約)銀行の設置
2.「こげつき保険」の提供
の2つです。
アグリゲート銀行の発想はS&L危機の際のRTC(整理信託公社)の発想に相通じるものがあります。要するに市中銀行が保有する様々な証券化商品を買い上げ、市中銀行のバランスシートからそういう「有毒汚染物」を除去しようという考え方です。
【なぜ「有毒汚染物」の除去が必要か?】
市中銀行が価値の算定が困難になっている証券化商品を抱えている限りは投資家は怖がって銀行株を買いません。またそれらの証券化商品の価値は日に日に下がっているので、放置しておけばどんどん市中銀行の自己資本を喰います。だから先ずそれらの証券化商品を政府が買い取る必要があるのです。
【なぜアグリゲート銀行という仕組みが必要か?】
政府がTARPの資金で市中銀行の抱える証券化商品を買い上げても、それで買い取れる「有毒汚染物」の量には限りがあります。そこでTARPの資金の一部を株式資本としてアグリゲート銀行を設立し、その資本をタネに政府保証の証券を発行し、レバレッジをかけて「有毒汚染物」を買えば、TARPのお金をそのまま使うより沢山の「有毒汚染物」を買い取れるのです。またアグリゲート銀行に市中銀行が「有毒汚染物」を売却した際、市中銀行は売却代金の80%をキャッシュで貰い、残りの20%をアグリゲート銀行の株式で支払いを受けます。こうすることにより市中銀行もアグリゲート銀行の株主になるので、あまり意地悪な値段でアグリゲート銀行に証券化商品を売り渡すことはしないだろうという読みがあるわけです。
【TARPが頓挫したのに、なぜアグリゲート銀行なら「有毒汚染物」をテキパキ買えるのか?】
ハンク・ポールセン財務長官はそもそも「有毒汚染物」を市中銀行から買い上げる予定でしたが、「むずかしすぎて、わからないし、そもそも時間が無い」という理由でそれを諦めました。なぜポールセンに出来なかったことが、シーラ・ベア(連邦預金保険公社の総裁)に出来るのか?
それはアグリゲート銀行は基本、市中銀行が持ち込む「有毒汚染物」を彼らの「言い値」で買い取るからです。つまり市中銀行が会計的に「これがフェア・ヴァリューだ」と値踏みしている会計価値をそのまま受け入れるわけです。この方法の利点はそもそも機能していない市場メカニズムに依存することなく、迅速に買取が実行できるし、買取に際して特別なスキルも不要だという点です。さらに市中銀行の側では売り渡しによってキャピタル・ロス(実現損)が出ないので、自己資本比率を毀損させる心配もありません。
【「こげつき保険」とは?】
これは既にバンカメリカやシティの救済で実際に使用されています。今後、証券化商品から発生する損が出た場合、最初の一定額は市中銀行が負担し、その後で、財務省、連邦預金保険公社が一定額の損を負担します。そしてそれでも足らない部分は連邦準備制度が「こげつき保険」というカタチで損を保証するわけです。
【今後の展開】
いまのところ「こげつき保険」のプログラムは既に走っています。アグリゲート銀行(=イギリスではこれを「悪い銀行」と呼んでいます)が設立されるかどうかは議会の承認にかかっています。なお、アグリゲート銀行案は上記の各省庁の共同発案ですが、たたき台になっているのは当然、連邦預金保険公社のシーラ・ベアの案です。
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