先週のアメリカの銀行株の下げは結構、きつかったです。僕はこれには大きく分けて2つの理由があると考えています。第一はキャピタル・ストラクチャー・アービトラージと呼ばれる裁定機会が生じていたことによります。二番目の理由は「故意的に」政府が傍観を決め込んでいるフシがあるという点です。言わば「放置プレイ」ですか?
この二番目のポイントに関しては次の『ダイヤモンドZAiオンライン』の記事に書こうと思っていますのでこの記事では解説しません。一番目のキャピタル・ストラクチャー・アービトラージについて少し書きます。
まずアメリカ政府は2月の末に「シティにさらに追加支援する」と発表しました。この発表の直後からシティの普通株がどんどん下がったのです。その「追加支援」の内容ですが、新しいキャッシュはびた一文投入されませんでした。その代わり、優先株を普通株に転換することで:
1.不良債権の損金計上をしやすくする(いわゆるタンジブル・コモン・エクイティーの議論)
2.優先株の配当負担を軽減する
という2つの目的を達成したのです。
問題は優先株から普通株に転換するときの条件設定です。そこでは:
シティ優先株 1 : シティ普通株 1 @ $3.25
つまりシティ優先株(シリーズAAプリファード)1株を持っている人は$3.25で普通株に交換しますという条件でした。すると:
シティ優先株(額面$25)
$25 ÷ 3.25 = 7.69株
つまり7.69株もらえるわけです。さて、このディールが発表される直前の2月26日の時点でのシティ(C)普通株の値段は$1.60近辺でした。すると:
$1.60 × 7.69株 = 12.3
がその時点での優先株の理論価値になります。シティの優先株は前日$5.50で引けた後、この条件を見て翌日は$9.25まで買われました。(但し大引けは$8.05)
別の言い方をすると27日の寄り付き前の時点ではシティ普通株を7.6株ショートし、シティ優先株を1株ロングすれば124%の鞘がロックインできたわけです。
さらに言えばGIC、キャピタル、アルワリード王子らは既に優先株を持っていたわけですから普通株が割高なうちにサッサと普通株を売り払い、ポジションを軽くするインセンティブが働いたわけです。(なおGICは「もうホトホト嫌気がさした。今後はメガバンクの資本補強には付き合っていられない」という旨のコメントを出しています。だから場で処分した可能性があると思います。)
それから今回のディールに関してはsmall print、つまり小さい活字で付記された但し書きがついていて、優先株の額面($25)でコンバージョン(転換)を実施するのは政府ならびに私募で優先株を引き受けた機関投資家のみであり、「一般の優先株保有者のコンバージョン価格は未定だ」とのことです。(例によってディール・ストラクチャーを説明するシティのパワーポイント・スライドの一番したの隅っこのところに、こっそりとその条件が挿入してある、、、これがヴィクラム流のやり方)
ということはこのアービトラージは壊れる可能性も残っているのです。
それは兎も角、大事なメッセージとしてはこういうアービトラージが可能になるディールを政府が率先してやっているということです。つまり政府はシティの普通株の株価がメチャクチャに壊れることを重々承知でやっているのです。もちろん、そのことがバンカメなど、他の銀行株の普通株主に大きな動揺を与えることも納得の上でやっています。
1 件のコメント:
穿った見方かもしれませんが、一度金融株の株を徹底的にぶっ壊して危機感を抱かせることにより、バッドバンクの話を推し進めようという意図があるのかもしれないな、という印象を持ちました。
コメントを投稿