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2009年10月9日金曜日

ドル安は中国や米国の思うツボ 「相手の言っていることを聞くのではなく、やっていることを観察せよ」


ウォール街の格言に「相手の言っていることを聞くのではなく、やっていることを観察せよ」というのがあります。

先日のSDRの話題ではありませんが、中国は口ではドル安に対する懸念うんぬんを表明しています。でも行動をつぶさに観察すると、財務省証券はまだ買い続けているし、最近のドル安で、結構ウハウハです。 「サンキュー・ベラマッチャ」状態なのです。そのことはこのひとつ下のエントリー、WSJの『ニュース・ハブ』の中でもデニス・バーマンが指摘しています。

また春山さんの今日のエントリーで日本、中国を除くアジア各国中央銀行がドル買いの介入に踏み切ったことを指摘されていますが、これは大事な展開です。なぜならアジア各国は中国が実質的に人民元を弱いドルにリンクしていることで恩恵を蒙っていることにホトホト困っているからです。

これは日本では殆ど耳にしないことですが、アメリカで金融関係に勤めている中国人と話をするとある違いに気がつきます。それは日本の投資家は「中国はいずれ日本の歩んできた道と同じ経路を辿る」と考えている一方で、中国のリーダーたちは「中国は日本から学ばなければいけない。その良い点は参考にし、悪い点に関しては同じ間違いを繰り返さないようにしよう」と考えている点です。

ここで日本の悪い点とはアメリカから円高容認を強要され、「強い国の通貨は強くないといけない」という通俗的な通貨理論にコロリと洗脳されてしまったことを指します。

覇権国とその通貨に関するスタディーだけでも膨大なデータ・ポイントがあるし、「強い国の通貨は強くなければいけない」ことを実証するのは極めて難しいです。増してや「ナンバー・ツー」の国の通貨戦略(=つまり基軸通貨でない有力国のこと)は、基軸通貨のそれとは大いに異なります。 日本はバルブから20年も経った今ですら、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の頃の奢った通貨観から抜け出せていません。 中国のエリートはそのへんの日本の甘さを指摘するわけです。

通貨高は日本にとって、そして日本の株式市場にとって悪いに決まっています。それに気付いていない日本の政治家や金融関係者を外国の金融関係者は哄笑を噛み殺しながら眺めています。
(アメリカではドル安を大歓迎しています。それはジム・クレーマーのこのビデオを見ればわかります。)

それでは中国はどうなのか?ですけど、先ず長期では人民元は元高ではなく、元安に誘導されてきました。 それは春山さんのこの記事を見ればわかります。(上の人民元のグラフも、その記事から拝借しました。なお、このグラフは右肩上がりですが、上にいけば行くほど元安です。)

春山さんはアジアの通貨危機の遠因が人民元の切り下げにあったことを仄めかされていますが、これは90年代の国際金融の歴史を理解する上で極めて重要なポイントです。(これに気が付いている点はやっぱり春山さんは慧眼。あのときはタイランドがグチャグチャになったけど、、、いま疲弊が激しいのは、、、日本じゃないの?)

この問題について考えるとき、僕はいつも天安門事件の直後にコロンビア大学の学生寮で開かれたパーティーの光景を思い出してしまいます。

僕のワイフがコロンビアの大学院に居た関係で当時我々はニューヨークの西119丁目の教職員アパートに住んでおり、キャンパス内でのちょっとしたパーティーに連日のように呼ばれていたのですが、天安門事件のニュースを見ていた中国の学生は「我々がアメリカ政府に求めることは、少なくとも中国からの学生を受け入れる門戸だけは閉ざしてほしくないということだ!」と切々と訴えていました。そこで或る中国人の学生が自嘲気味に「いま中国が得意なのは学生の輸出だけだ」と吐き捨てたのです。あのときの中国の学生のトラウマは今でも僕の頭に焼き付いています。

あの当時、中国を輸出王国日本に対する脅威だと感じた日本人はどれだけ居るでしょう?少なくとも僕はぜんぜんそう感じませんでした。 つまり1989年当時中国は成功していない国の典型だったのです。

中国の「輸出マシーン」の成功は比較的最近の出来事です。もっと厳密に言えば天安門事件以降、中国がどんどん人民元を切り下げたから、中国の国際競争力が高まったのです
中国人はこのことを決して忘れないと思います。

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