もうひとつダーク・プールの例を説明します。
ビリーは証券会社の自己勘定で顧客の大口注文に売り向かったり、買い向かったりするポジション・トレーダーです。トレーディング・ルームのスピーカー・システムからビリーの緊張した声が聞こえてきます。
ビリー:「IBMでプライス・チェックされたぞ!」
プライス・チェックというのはフィデリティーのような大口機関投資家がまとまった株数のブロックを「お前は幾らで取れる?」と打診してくることを指します。
この場合、フィデリティーはひとつの証券会社だけでなく、数社に矢継ぎ早に電話を入れて、最も良い値段を提示した証券会社に「お前に全部売った!」と一括して買い取らせるのです。
ビリー:「ウチのビットがヒットされた!(We got hit!) 20万株のIBMが在庫になったぞ!(We are long 200 IBM!)」
この叫びと同時にセールス・トレーダーの前にあるタレット(顧客との直通電話)の橙色の灯が全部ともります。セールス・トレーダーはなるべく早く、在庫になった20万株の処分先を見つけないといけないので、買ってくれそうな大口機関投資家に片っ端から電話を入れるわけです。
セールス・トレーダー:「あの、IBMあります。」
顧客A:「うん、じゃ5万株、貰っとこ。」
こんな感じで綺麗に20万株を全部処分してしまわないといけないのです。しかし最初にフィデリティーが各証券会社にプライス・チェックを入れた際、売り物が来ることはウォール街中にバレてしまっているので、他の証券会社は注文を取れなかった腹いせに勝った証券会社が不利になるような情報を顧客に流します。
証券会社Bのセールス・トレーダー:「あの、IBMに大きな売り物があります。」
顧客B:「うん、ありがと。」
従って在庫を抱え込んでしまったビリーは一刻も早くその玉を処分してしまわないと値段が崩れてしまうのです。
■ ■ ■
上の例ではIBMの売り物20万株がダーク・プールです。
この20万株の売り物の存在は最初はフィデリティーから打診を受けた各証券会社のチーフ・トレーダーだけが知ることの出来る情報です。NYSEで売り買いを突き合わせているスペシャリストや一般投資家にはこの情報は流れません。
でもリスク(=つまり在庫)が敵の手に渡ったとわかった瞬間から相手が成功裡に在庫を処理するのを妨害するバトルがはじまるのです。
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