上のグラフは世界の主要株価指数の年初来のパフォーマンスです。
この手の資料を僕が見せるとき、必ず断ることですが、起点をどこに取るかでどんなストーリーでも描けてしまうことに注意を払う必要があります。
例えばロシアが第1位になっているのは、去年の金融危機の際に大下げを演じたからにほかなりません。
また、米国は冴えませんが、この理由は1月から3月にかけてマーケットが急落したからであって、今年の年初に入ってからアメリカを買うという投資判断をした場合のリターンが如何に貧しいものであったかの証左です。
それでも3月に買っておけば今頃40%程度の利食いなわけで、一枚のグラフで語れることの限界を痛切に感じさせるのがこのパフォーマンス・グラフです。
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さて、そういう「図表のトリック」はさておき、(それにしてもロシアのこの90%という数字は凄いよね)という事を僕など改めてジーンと臓腑に感じるのです。それと同時にロシアという国が如何に世界の投資家から誤解されているかを想わずにはいられません。
例えば皆さんがガソリンスタンドで給油したとき、(最近はセルフサービスなのかもしれないけど)ガソリンスタンドのお兄さんに:
「すみません、今注油したガソリン、イランから来たガソリンですか?若しそうなら、僕はイランは嫌いなのでサウジアラビア産に変えたいのだけど、、、」
と注文をつける消費者は居ないはずです。
つまり消費者の目からみれば、「石油は石油」なのであり、コーヒー豆や紅茶みたいな産地によるブランディングは無いのです。
なぜこんな事を指摘するかといえば、ロシアの石油や天然ガスの輸出は消費国のサプライチェインの中に完全に組み込まれており、トコロテン式に間断なく供給が続いているということを分かってほしいからです。
フランクフルトの家庭で夕ご飯を調理するためにガスコンロに火をつけるたびに、ロシアの輸出品が消費されているというわけです。
すると指標銘柄であるブレント石油の価格が上昇すれば、ロシアの輸出も自動的に増えるのです。
日本人は「輸出競争力とは、つまりどれだけ付加価値を付けて売るかだ!」と考えている人が多いです。その発想は僕にもよくわかるし、日本がそれで国として大成功を収めてきたことはまぎれもない事実です。
しかし付加価値をつけることだけが輸出のゲームではありません。実際、日本だって付加価値があろうがなかろうが、そんな事にお構いなく、石油や鉄鉱石などをどんどん輸入しています。
また、付加価値をつけることで活路を見出すゲームは辛い、棘の道のりでもあります。ぼんやりしているとウォークマンのようにアイチューンに駆逐されてしまったりするわけです。そのたびごとに新しいもの、より優れたものを世に問うということは素晴らしいことだけど、、、(それが世界標準に違いない)と思いこむところに日本人の傲慢さ、勉強の足らなさがあるのです。
これからの世界は(上のグラフがいみじくも語っている通り)先進国は相当苦しい世の中になります。新興国の方が成長を出しやすい時代が来ます。それは「質より量」の時代が来る事を意味するのです。
なぜなら中国やインドをはじめとする新興国は巨大な人口を抱えているけど、その大半は比較的所得水準が低く、それらの無数の人々が「ちょっぴりリッチ気分」になる世界、、、それが未来の姿だからです。
彼らはいきなり液晶テレビを買ったり、アイフォーンを買ったりしません。(もちろん、中国などに既に出現しているニュー・リッチ層は別です!)
大多数の新興国の人々は食卓に豚肉が乗る機会が増える(中国の場合)とか、おやつにチョコレートを貰う機会が増える(インドの場合)などの機会を通じて自分たちが豊かになりつつあることを実感すると思うのです。
だから『タタ・ナノ』を「あんなオモチャみたいな安っぽいクルマのどこがいい?」と批判するのは完全に無知な発言なのです。
そういう人は一度カルカッタの町を人力車で走ってみるといいです。
そこには牛も居れば、オートバイも走っていれば、荷車を押している人も居る訳で、鶏だって飛び出してくるかもしれません。
そんなところをBMWで颯爽と飛ばそうと思っても、時速5KMくらいのノロノロ運転だし、高飛車でいやみったらしいイメージしか与えないと思うのです。(そういうのが好きな人はどうぞ。)
そこへゆくと『タタ・ナノ』はサイズからして威嚇的ではないし、周りの「道路の利用者」と共存的であり、フレンドリーです。
我々は今までの日本人的な成功の方程式、貿易観、価値観を早く捨てないとビジネスマンとしてもインベスターとしても成功しないと思います。
1 件のコメント:
今回のお話を読んでバフェットの投資先の考え方が少し理解できました(出来たような気がしてるだけかもしれませんが).
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